苦労話に見る教訓 - 「会社は毎日つぶれている」
私は以前小さなベンチャーに勤めていたのですが、小さいだけに、ちょっとしたキャッシュフローの変化が経営状況に大きく影響していました。Excelで資金繰り表を作成する社長の背中をよく覚えているものです。
相変わらず不景気で、危険な状況に陥る可能性も高く、世の社長さんたちは皆さん苦労されていると思いますが、そんな社長に向けての心得や姿勢を苦労話に交えて語った本が、本書「会社は毎日つぶれている」です。
いや、むしろ苦労話がメインのような印象も…。
2004年当時、合併を目前にしていた日商岩井とニチメンの抱える不良債権は1兆5000億円に達していて、危機的状況…というか壊滅的状況にあったそうです。そのような状況で合併、発足した双日の社長に就任したのが筆者の西村氏です。
本書は、筆者が会社を存続・再生させる活動の中で得られた様々な体験や洞察を、語りかけるような筆致で記したものです。
本書は、全体としての筋書きやストーリーの流れを持たせた内容ではなく、社長として肝に銘じておくべき心得、事に当たる姿勢について、個々のトピックを並べていったような構成になっています。
とはいえ、筆者の主張する内容はブレることはありません。不景気や風評など、様々な外的要因が会社を危機に陥れますが、最終的に会社にトドメを刺すのは他ならぬ社長である、というものです。
会社経営とは薄い甲板しか持たない船で航海しているようなものであり、立つ足のすぐ下は真っ暗な海が広がって、油断するとすぐに海水が噴き出し、沈没しかねないのだと筆者は言います。社長たるもの、経営を脅かすリスクを常に見据えておかなければならないのです。
「会社は毎日つぶれている」というのは、このようないつでも倒産し得るというリスクを端的に表現したものであり、社長が薄氷を踏み抜かないように警告する言であるわけですね。
私が印象に残ったのは、こういった言わば「機能面」で備えるべき条件に加え、更に社長に求められる条件がある、という点です。
(強調は引用者)
会社の中で毎日毎日、あのリスクこのリスクと言いたてている社長はいません。
(中略)
社長は危機を察知したからといって、「危険だ、危険だ」と吹聴し危機を増幅することはしません。これが社長の二面性です。社長と他の役職員との違うところ、社長と副社長の違うところです。
(P.23「社長の責任と醍醐味」)
経営者としての機能を社長一人が全て賄うことは現実的には難しいでしょう。特に大規模な企業になり、様々なリスクや問題を抱える場合は尚更です。そこで、COOやCTOなど各分野の責任者によってリスクの顕在化を予防したり、施策を打ったりするわけです。
しかし一方で、社長は会社を構成する関係者の気持ちが揺れないように、心理的なアンカとして、そこに安定していなければならない責任を持つのですね。真っ先に不安定になってフラフラしているようでは、そこで会社は潰れてしまうのです。
すべてのリスク因子を察知し、受けとめながらこれをいちいち言いたてることなく、表面は平然としながら、会社の成長を語る。
(中略)
まさに社長業の醍醐味でしょう。毎日毎日つぶれていく会社をつぶさない、こんな快感はありません。
(P.24)
筆者の主張はここに集約されていると感じます。
個々のトピックについても、人員削減や給与抑制に偏った合理化の失敗、社長の思いつきの一斉号令が生む悲劇、希望的な数値目標の甘い罠など、個人的にも誰かに是非聞いてほしい話が語られています。
前述したような絶望的な状況を乗り切るために、筆者は相当の覚悟を持って施策を断行したそうで、熱い思いが感じられる内容になっています。
私の周囲にも、個人で仕事をしたり会社を立ち上げたりする人たちは何人もいるのですが、本当に凄いなぁと常々思います。その責任の重さと醍醐味が読み取れる本書、おススメです。
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