リアルな猫ライフ - 「伊藤潤二の猫日記よん&むー」
私は普段ホラーものは、漫画も小説も読みませんし、映画やテレビも観ていません。
あまり怖がりたいという欲求が無いからなのですが(恐がりとも言う)、そんな私でもホラー漫画の鬼才、伊藤潤二先生のことは知っていました。
著書のページをちらりと見たことがあるのですが(恐がり)、もの凄い細かい筆致とトンでもない演出でこわーこわーと思った記憶があります。
そんな、普段ホラーと縁も所縁も無い私が、書店でたまたま表紙を見つけて、買わずにはいられなかった同氏の漫画が、本書「伊藤潤二の猫日記よん&むー」です。
本書は、婚約者が連れてきた2匹の猫「よん」「むー」との生活を、ホラー漫画家J君を主人公にして、面白おかしくそしてハートウォーミングに綴った日記漫画です(やや誇張あり)。
B級スプラッタホラー映画のファンは、よくそれを見ながらゲラゲラ笑っているものですが、理由を聞いてみると、登場人物の無茶な死にっぷりやリアクションが面白くてたまらないのだそうです。
なるほど、スプラッタ映画では酷いシチュエーションで無茶な死に方をすることも多いのでしょう。
B級スプラッタホラー映画は表現がどぎついだけで、「ありえないシチュエーションであり得ないことが起きる」という点では、その形式はお笑いと似たような構成なのかもしれません。チャウ・シンチー監督の「カンフーハッスル」のキャッチコピーは「ありえねー!」でしたね、そういえば。
本書の筆致は筆者のいつものホラー漫画と同じもので、登場人物たちは薄気味悪く、猫たちは恐ろしげに描かれています。
ただ、内容が他愛無さすぎる猫生活漫画であり、また主人公夫婦の溺愛っぷりが伺えるその行動描写から、恐ろしげな筆致がすべてギャグと化しているのです。
もちろん、本書はホラー漫画の描写方法をギャグとして活かすことを意図して執筆されているので、筆者の意図とずれて楽しめる、所謂トンデモ本ではありません。私はその演出に見事に乗っかり、大笑いしながら読むことができました。
本書はそのホラー手法のギャグ転用という演出も素晴らしいのですが、「よん」「むー」の仕草や描写も素晴らしいのです。これは猫を飼っている人なら、皆さん感心してしまうのではないでしょうか。
たとえば、猫が欠伸をするシーン(49ページ)があります。
我が家の猫もそうなのですが、猫は欠伸をするとき目が前後ににゅうううと伸びて、見る方向によっては、それはそれは恐ろしい形相になるのです。このシーンの欠伸は、まさにその様を忠実に捉えた描写をしています。
また猫がおしっこするシーンで、擬音が「じょじょじょじょじょ…」と表現されますが、実際我が家の猫様もそのとおりの力強い効果音が付くんですよ!その小さな体のどこからそんな水量が!
筆者が如何に猫を大事にして、愛情をもって見守っているか分かる、ハートウォーミングな猫日記漫画、お勧めです。
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.