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部屋の象を直視できるか - 「最後の授業」

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Youtubeなどによって、私たちは世界中の様々なスピーチを聞けるようになりました。その中でも最も有名なもののひとつに、カーネギーメロン大学教授のランディ・パウシュさんの「最後の授業」があります。

膵臓がんに冒されていた彼は、自身の命が長くないことを知らされていました。そんな状況で、如何に夢を叶えるかをデーマに行った講義が、「最後の授業」でした。
その講義を踏まえ、彼が伝えたい内容を更に補足して語ったものが、本書「最後の授業」です。

最後の授業

講義の動画を見たり、本書を読んでみたりすると、彼が如何にエネルギッシュな人間であるかがよく伝わってきます。プレゼンテーションは活力に満ちていて、語りはユーモアに溢れ、機知に富んだコメントが次々と飛び出してきます。

そのような表に現れる美点は、彼が今まで生きてきた姿勢に基づく内面が反映されたものであり、それが何よりも私たちの心を打つのでしょう。

実際の講義でもそうでしたが、本書では、彼が子供の頃に抱いた夢をどのようにしてかなえてきたか、そのためにどのような姿勢が大事であるかを示してくれます。
また、自分の夢だけでなく、他者の夢を実現するための手助けをすることの楽しさや充実感についても力強く語ります。彼自身が大学教授として、自らの学生をどのように導いたか、それによって世界がどう変わっていったかを説明します。

数々の体験談やそこから得られた教訓、どこまでも前向きで楽観的な考え方など、本書には感銘を受ける話や、思わず笑ってしまうエピソードが沢山詰まっています。
その中でも私が特に印象に残っているのは、自身が抱えている問題(余命が僅かであるということ)を、彼がどのように捉えているかについて語った部分です。

これは講義でもほんの短い部分であり、本書でもそれほど紙幅を費やしているわけではないのですが、彼はこの問題を「部屋の中にいる象」だと語ったのです。

これは、対象があまりに大きいため、視界に収まらない(敢えて見ない)様を表現しています。しかし部屋にいる象を無視し続けたら、きっと最後はエラい目にあってしまいます。

つまり、対処すべき問題を見て見ぬ振りをすると、手痛いしっぺ返しを喰らうぞ、ということを暗に警告している言い回しなのですね。元々は寓話に基づく言い回しだそうです。

彼はユーモアたっぷりに自らの病をこのように表現した上、象の大きなぬいぐるみ(しかも可愛いらしい!)を持ち込んで、聴衆へのお土産にすらしてしまうのです。

彼は自らの死を恐れていないわけではないし、目を反らしているわけでもないのですね。
実際、彼の死後残される奥さんやお子さんに配慮して、より実家に近く生活し易いと考えられる場所へ引っ越しをしています。
日々の治療が辛くないわけではないし、自分が居なくなった後のことを考えて失望感を覚えることがあることも、本書では語られています。

問題をしっかりと見据えながら、しかしそれを人生の全てにしてしまうのではなく、上手く扱いながら、人生を楽しむことが大事なのだと彼は教えてくれるように思います。

「上手く扱う」というのは、具体的なアクションというよりも、問題の捉え方や感じ方といった、マインドの部分が占める割合が大きいのでしょう。
問題の深刻さに引き摺られることなく、バランスを保ちながら、ニュートラルに人生を過ごしていくことがやはり大事なのだな、と改めて感じました。

2008年7月に著者は亡くなりましたが、彼のWebサイト日本語訳)を見てみると、その直前まで前向きに人生を楽しんでいたことが分かります。

余命半年」を読んだ時に、死を前にして後悔しないよう生きたいものだと感じました。
それは漠然とした願望に過ぎないのですが、夢を実現させることに全力を尽くして、いつも人生を楽しんだ彼を見ると、その理想的なかたちのひとつを示してもらったのだな、と思います。

Written by nen

June 23rd, 2009 at 9:00 P

One Response to '部屋の象を直視できるか - 「最後の授業」'

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