原始の心の声 - 「リスクにあなたは騙される」
ここ最近、ちゃんと自分で考えることの重要性を訴えかける本が増えてきた印象があります。脳トレや自己啓発本ブームも、会社や国が自分を守ってくれるとは思えない…そんな不信感を反映したものなのでしょうか(年金なんかは、自分たちの親のために払ってると思うしかないですねぇ)。
そんな中、特にリスクというものにどう向き合っていくべきなのかを論じているのが、本書「リスクにあなたは騙される」です。
リスクとは、発生したら対象に何らかの影響を与える、まだ顕在化していない事象のことを指します。
PMBOKなどの定義では、良い影響を与えるものも悪い影響を与えるものも、総称してリスクと呼びますが、一般的には「起きたら悪い影響を被るもの」をリスクと見做すことが多いでしょう。
本書は、私たちがリスクに対して必要以上の恐怖や危機感を抱く原因について、リスクに対する恐怖を煽ることによって利益を得る人間や組織、そしてキャッチーなニュースを提供しようとするメディアを挙げます。しかし何よりも、私たち自身が備えている判断のメカニズムにこそ、大きな原因があるのだと言います。
私たちが物事を認識した場合、まず最初に反応するのは感情に基づく判断機能で、これは今までの経験や直感といった、ヒューリスティックな機構が支配する部分です。つまり、論理的な判断を行う部分ではない、ということです。
次に遅れて反応するのが理性に基づく判断機能で、ここで私たちは理屈や論理に照らし合わせて、合理的な判断をしようとするわけです。
本書では前者を「腹」と呼び、後者を「頭」と呼んでいます。私たちはまず「腹」、感情や直感によって物事を判断しようとする傾向がある、というのですね。
この傾向のせいで、私たちは直観的に悪いと信じられる物事(核とか癌、テロなど)に過剰に反応してしまい、リスクに対して過大な恐怖を抱いてしまうのだと言います。これは、まさに直観的に納得できる話です。また、これらは認知心理学のお話で、行動経済学に関する本とも内容がリンクします。
面白いのは、こういった直感を優先しがちな傾向が、実は私たちの脳の判断プロセスが原始時代の人類から変わっていないことを示している、ということです。
目の前にマンモスやらサーベルタイガーやらが迫っている状況を認識したとき、いちいち理屈をこねていると、
「目の前にサーベルタイガーが迫っているなぁ」
→「サーベルタイガーは猛獣であるなぁ」
→「猛獣は人間を捕食するものであるなぁ」
→「私はにんげ(がぶー)
と速やかに美味しく頂かれてしまうので、身の安全を確保するために、私たちはまず認識に対して素早く反応しなければならなかったわけですね。そのための仕組みが「腹」であったということです。
原始時代には役に立ったシステムが、そういった直感で対応すべき事象が少なくなった現代でも働いてしまうことで、非合理的な行動を生んでしまう。これって古典的な進化論からすれば、人間はそろそろ自然淘汰される対象にリスティングされてきてるってことになるのでしょうか。
私たちが本能的に備えるこの非合理な振る舞いと折り合いをつけるためには、結局は「頭」を積極的に働かせなければならないと本書は説きます。
「経済不安に備える」とか「勝ち組になる」という話以前に、私たちを原始人から区別してくれる機構は、この「頭」に尽きる、ということでしょう。
そう考えれば、冒頭の「よく考えましょう」ブームは、私たちの次へのステップを促す進化圧力なのかもしれませんね。
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